「芸能人は歯が命」

そんなフレーズが流行した時代がありました。

芸能人でなくても、歯並びを気にされる方は少なくありません。

仕事柄、度々

「歯並びは遺伝(だから仕方ない)ですよね?」

というご相談を受けることがあります。

今日は、そのようなご質問をいただいた時に、私がいつもお話ししている内容をご紹介したいと思います。

歯並びは本当に遺伝なのでしょうか?

多くの方は、歯並びは遺伝で決まると思われています。

もちろん、それは間違いではありません。

顎の大きさや形、歯の大きさや本数などには、遺伝的な影響があります。

しかし近年では、歯並びは遺伝だけでは説明できず、口の周囲の筋肉の使い方や呼吸、舌の位置、生活習慣などの環境要因が非常に大きく関わることが数多く報告されています。

つまり、

「歯がどのように生えて、どこに並ぶか」は、毎日の生活の積み重ねによって決まる部分が非常に大きいのです。

歯は一生動き続けています

実は歯は、一度生えそろったらその場所で固定されるわけではありません。

歯は生涯にわたり少しずつ動こうとしています。

例えば、

  • 年齢とともに前歯が重なってきた
  • 以前より歯並びが変わった
  • 隙間ができてきた

という経験をされる方も少なくありません。

これは歯が常に骨の中で少しずつ移動し続けているためです。

その動きを止めているのが、周囲から加わる「力」のバランスなのです。

歯を並べているのは「周囲からの力」

歯には常に様々な方向から力が加わっています。

例えば、

  • 飲み込む力
  • 会話
  • 噛む力
  • 咬み合わせ
  • 隣の歯

これらすべてが歯を支えています。

昔から歯科では、この均衡を「筋機能平衡(equilibrium)」という考え方で説明してきました。

近年では、この考え方がさらに発展し、口腔筋機能療法(Myofunctional Therapy:MFT)として世界中で研究が進められています。

舌の位置や飲み込み方、口呼吸などを改善することで、歯並びや矯正治療後の安定性が向上することも報告されています。

つまり、

歯並びは「歯が並んでいる」のではなく、「毎日の筋肉の使い方によって並べられている」のです。

舌は想像以上に重要な存在

最近特に注目されているのが「舌」です。

舌は安静時、本来であれば上顎に軽く触れている状態が正常とされています。

ところが、

  • 舌が下がっている
  • 口が開いている
  • 口呼吸になっている

この状態が続くと、舌が本来内側から支えている力が弱くなり、頬の筋肉の力が優位になります。

すると、

  • 歯列が狭くなる
  • 上顎が十分に発育しにくくなる
  • 出っ歯や叢生(歯の重なり)が起こりやすくなる

ことが知られています。

特に子どもの成長期では、この影響は非常に大きいと考えられています。

呼吸も歯並びに影響します

最近の研究では、

口呼吸は歯並びだけではなく、顔貌の発育や睡眠の質にも関係する

ことが明らかになってきました。

鼻呼吸では、

  • 舌が上顎につき
  • 唇が閉じ
  • 顔の筋肉が自然なバランスになります。

しかし口呼吸になると、

  • 舌が下がる
  • 唇が開く
  • 頬の筋肉との力のバランスが崩れる

ため、歯並びに影響を及ぼします。

呼吸という、一日中続く習慣だからこそ、その影響は決して小さくありません。

顎顔面は身体の中でも特別な場所

お口の周囲には20以上もの筋肉が存在するといわれています。

さらに、

表情筋は皮膚から皮膚へ付着する特殊な筋肉であり、咀嚼筋、舌の筋肉、飲み込みに関わる筋肉など、多数の筋肉が複雑に協調しています。

しかもこれらは、

筋膜や頭蓋骨、舌骨を介して首や肩、体幹へとつながっています。

つまり、

お口だけを切り離して考えることはできないのです。

心の状態もお口に現れます

顎顔面は、脳との関係が極めて密接な場所でもあります。

例えば、

  • 緊張すると口が乾く
  • 声が震える
  • 唇が震える
  • 食いしばる
  • 顔が赤くなる

こうした経験は誰にでもあるのではないでしょうか。

精神的なストレスは、自律神経を介して筋肉の緊張を変化させます。

その結果、

無意識の食いしばりや歯ぎしり、片側だけで噛む癖、舌や唇の動きの偏りなどにつながることがあります。

近年では、慢性的なストレスが咀嚼筋の過緊張や顎関節症の一因となることも多くの研究で示されています。

つまり、

脳とお口は、お互いに影響を与え続けているということです。

姿勢も歯並びに関係しています

私のブログでもたびたびお話ししていますが、頭の位置や姿勢は、お口に大きな影響を与えます。

例えば、猫背になると、頭は前へ出ます。

すると、舌骨や首の筋肉の緊張が変わり、舌の位置や飲み込み方まで変化します。

さらに顎関節も左右一対で動く特殊な関節です。

身体の左右差や姿勢の癖は、

顎の動きにも影響し、

結果として歯へ加わる力にも偏りが生じます。

歯並びだけを見ていても、本当の原因が身体にあることは決して珍しくありません。

治療の前に、自分の癖を知る

矯正治療でも、

むし歯治療でも、

入れ歯でも、

その治療が長持ちするかどうかは、毎日繰り返される「力」の影響を無視できません。

例えば、

  • 口呼吸
  • 舌癖
  • 食いしばり
  • 頬杖
  • 片側噛み
  • 姿勢
  • 飲み込み方
  • 話し方

こうした癖が残ったままだと、歯が動きにくかったり、矯正後に後戻りしたり、歯が欠けたり、歯ぐきが腫れたりする原因になることがあります。

「遺伝だから仕方ない」と思っていたことが、実は親から受け継いだのは歯並びではなく、生活習慣や身体の使い方だったということも少なくありません。

おわりに

歯は、お口の中だけで生きているわけではありません。

呼吸や姿勢、舌の位置、筋肉の使い方、食べ方、話し方、そして心の状態まで。

そのすべてが積み重なって、今の歯並びをつくっています。

だからこそ、歯並びを整えることは、単に歯を動かすことではありません。

自分自身の身体や生活習慣を見つめ直すことでもあるのです。

もし歯並びが気になったら、歯だけを見るのではなく、

「私はどんな癖を持っているのだろう」

そんな視点から、ご自身の身体と向き合ってみてください。

きっと、お口だけでなく、身体全体の健康につながる新しい発見があるはずです。

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