それは顎関節症の始まりかもしれません

突然ですが、今、大きく口を開けてみてください。

指が縦に3本ほど入るくらいまで開きますか?

開ける途中で顎が「カクッ」「コキッ」と鳴ったり、途中で引っかかったり、痛みを感じたりしないでしょうか。

もし歯科医院で「もう少しお口を開けてください」と言われることが多いのであれば、症状がなくても顎関節症の予備軍かもしれません。

実は近年、「口が開けにくい」「顎が鳴る」「顎が疲れる」といった悩みを抱える方は少なくありません。

顎関節症は「関節の病気」とは限らない

「顎関節症」という名前から、多くの方は顎の関節そのものが悪くなっていると思われます。

しかし近年では、顎関節症は一つの病気ではなく、さまざまな原因が重なって起こる病態であることが分かってきています。

以前は関節円板(クッション)のズレが原因と考えられることが多かったのですが、現在ではそれだけでは説明できないケースが数多く報告されています。

実際には、

  • 咀嚼筋や首・肩の筋肉の緊張
  • 食いしばりや歯ぎしり
  • ストレスによる筋肉の過緊張
  • 睡眠の質の低下
  • 姿勢や頭頸部のバランス
  • 口を大きく開ける機会の減少

など、さまざまな要因が複雑に関係しています。

つまり、「顎だけ」を診るのではなく、「身体全体」を診ることが大切なのです。

なぜ20代女性に多いのでしょうか

厚生労働省の歯科疾患実態調査でも、顎関節の痛みや音は20代女性に多いことが報告されています。

実際の臨床でも、この年代の患者さんを診る機会を非常に多く感じます。

では、なぜ20代女性なのでしょうか。

私はいくつかの理由が重なっていると考えています。

① 筋肉量と骨格の違い

女性は男性より筋肉量が少なく、骨格も華奢です。

顎を支える筋肉が疲労しやすく、緊張しやすいため、関節への負担も大きくなります。

② 人は「ストレス」より「変化」に弱い

以前のブログでもお話ししましたが、人はストレスそのものよりも環境の変化に強い負担を感じます。

20代は

  • 進学
  • 就職
  • 一人暮らし
  • 結婚
  • 転職

など、人生で最も環境が変わる時期です。

この変化に適応するためには、脳内のセロトニン神経が重要な働きをします。

ところが慢性的なストレスが続くと、この働きが低下し、自律神経のバランスが乱れやすくなります。

その結果、無意識の食いしばりや筋肉の緊張が起こり、顎関節症につながると考えられています。

③ 女性ホルモンとの関係

女性では約1か月周期で女性ホルモン(エストロゲン)が変動します。

このホルモンはセロトニンとも深く関係しており、ホルモンの変化に伴って気分や睡眠、自律神経の状態も影響を受けます。

さらに女性は男性よりもセロトニンが低下しやすいことも知られており、これが筋肉の緊張を強める一因になっている可能性があります。

口を大きく開ける機会が減っている

もう一つ、現代ならではの要因もあるように感じています。

最近の食事は、

  • 柔らかい食べ物
  • 一口サイズの食品
  • あまり噛まなくても食べられる料理

が増えました。

昔のように、大きな口を開けたり、しっかり噛んだりする場面が少なくなっています。

筋肉は使わなければ動きが悪くなります。

顎も例外ではありません。

さらに日本では、特に女性に「口を大きく開けないほうが上品」という文化的な美意識も残っています。

笑う時も食べる時も口元を小さくする習慣が続けば、顎の可動域が狭くなりやすいのではないでしょうか。

もちろん、これだけが原因とは言えませんが、一つの要素として考えてもよいように思います。

「安静」が必ずしも正解ではない

以前は「顎をなるべく使わず安静にしましょう」と言われることが少なくありませんでした。

しかし最近では、痛みが強い急性期を除けば、必要以上に動かさないことがかえって回復を遅らせる場合があることも分かってきています。

現在は、

  • 痛みの少ない範囲で口を動かす
  • 顎だけでなく首や肩の筋肉を整える
  • 食いしばりの癖に気づく
  • 睡眠やストレスを改善する

といった、身体全体を整えるアプローチが重視されています。

「顎だけ治す」のではなく、「顎が動きやすい身体をつくる」という考え方です。

顎はストレスのバロメーター

顎関節症は、単なる顎の病気ではありません。

身体や心からの「少し疲れていますよ」というサインなのかもしれません。

顎が鳴る、口が開きにくい、朝起きると顎がだるい、食いしばっていると言われた…。

そんな症状があれば、顎だけを見るのではなく、

「最近、無理をしていないかな」

「睡眠は取れているかな」

「肩や首がこっていないかな」

と、ご自身の生活を振り返ってみてください。

顎関節症は、早い段階で気づき、生活習慣や身体の使い方を見直すことで改善するケースが少なくありません。

顎からの小さなサインを見逃さず、身体全体の声にも耳を傾けてあげてください。

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