本当に人間の身体はよくできています。
これまで何度か「セロトニン」についてお話ししてきましたが、今日はもうひとつの大切な脳内伝達物質、「オキシトシン」についてお話ししたいと思います。
セロトニンが心と身体のバランスを整える役割を担うとすれば、オキシトシンは人と人とのつながりを支える役割を担っています。
オキシトシンを表すキーワードは、
「愛」と「信頼」
です。
私たちが他人を信頼し、思いやりを持って接することができるのは、このオキシトシンの働きがあるからです。
人間は一人では生きていけません。
家族、友人、仲間、地域社会など、さまざまなコミュニティの中で支え合って生きています。
その土台となるのが、オキシトシンなのです。
母親の愛を支えるホルモン
オキシトシンというと、出産や育児に関わるホルモンとして有名です。
子宮の収縮を促したり、母乳の分泌を助けたりする働きがあります。
赤ちゃんを抱きしめる。
母乳を与える。
優しく見つめる。
こうした行動によって母親の脳内ではオキシトシンが分泌されます。
母親が子どもに向ける深い愛情や献身的な行動も、このオキシトシンの働きを考えると納得できます。
しかし、オキシトシンは女性だけのものではありません。
男性にも分泌されますし、実は犬などのペットとの関係にも深く関わっています。
忠犬ハチ公の気持ちもオキシトシン?
「愛」と「信頼」と聞くと、私は忠犬ハチ公を思い出します。
実際に、飼い主と犬が見つめ合うことで、お互いの体内でオキシトシンが増加することが研究で示されています。
飼い主が犬を見つめる。
犬が飼い主を見つめ返す。
そのアイコンタクトによって信頼関係が深まり、双方にオキシトシンが分泌されるのです。
まさに「愛情のキャッチボール」です。
オキシトシンが助けるのは他人との関係だけではない
オキシトシンの素晴らしいところは、他人との関係を良くするだけではありません。
実は、
自分自身を助けてくれる
という働きがあります。
特に現代社会を生きる私たちにとって、これは非常に重要です。
なぜなら、オキシトシンはセロトニン神経を守る働きを持っているからです。
ストレスとセロトニンの関係
以前のブログでもお伝えしましたが、セロトニン神経はストレスに弱いという特徴があります。
ストレスが続くと、
コルチゾール
というストレスホルモンが増加します。
コルチゾールが長期間高い状態になると、セロトニン神経の働きは弱くなります。
つまり、
朝日を浴びる。
よく噛む。
リズム運動をする。
こうした「セロ活」を頑張っていても、強いストレスを受け続けていれば、セロトニン神経はなかなか元気を取り戻せません。
ところがオキシトシンには、
- コルチゾールの働きを抑える
- ストレス反応を和らげる
- セロトニン神経の受容体(レセプター)に働きかける
- セロトニン神経の活動を促進する
という働きがあります。
つまり、
オキシトシンはセロトニンの強力な応援団なのです。
「情けは人の為ならず」の科学
昔から
「情けは人の為ならず」
と言われます。
本来の意味は、
「人に親切にすると、その善意はいずれ自分に返ってくる」
というものです。
実はこれは単なる道徳的な教えではなく、脳科学的にも理にかなっています。
人に親切にする。
感謝される。
信頼関係が生まれる。
オキシトシンが分泌される。
セロトニンが活性化する。
自分自身の幸福感が高まる。
つまり、
人に優しくすることが、自分自身を幸せにする。
そんな仕組みが私たちの脳には備わっているのです。
そして、この好循環は相手にも広がっていきます。
結果として、
社会も、
コミュニティも、
そして自分自身も、
少しずつ幸せになっていくのです。
推し活でもオキシトシンは分泌される
面白いことに、オキシトシンは必ずしも双方向の関係だけで分泌されるわけではありません。
一方的な愛情でも分泌されることが知られています。
最近よく耳にする
「推し活」
もその一例です。
好きなアーティストや俳優、スポーツ選手を応援する。
動画を見て元気をもらう。
活躍を喜ぶ。
そんな時間にもオキシトシンが分泌されると考えられています。
「推しがいると毎日が楽しい」
という感覚も、実は脳科学的な裏付けがあるのかもしれません。
歯科医療にも欠かせないオキシトシン
一見すると、オキシトシンは歯科とは関係がないように思えるかもしれません。
しかし私は、訪問歯科の現場でこの重要性を日々感じています。
患者さんが不安そうな表情をしているとき。
認知症で落ち着かないとき。
病気と向き合いながら生活しているとき。
必要なのは技術だけではありません。
安心感や信頼感です。
「この人なら大丈夫」
そう思っていただける関係づくりが、患者さんの持つ本来の治る力、生きる力を引き出します。
そして、その関係を支えているのもまたオキシトシンです。
人は人によって癒やされる。
だからこそ医療は、単なる治療行為ではなく、人と人との関わりなのだと思います。
セロトニンが心と身体の土台を整えるなら、オキシトシンは人と人をつなぐ架け橋です。
今日、誰かに少し親切にしてみる。
感謝の言葉を伝えてみる。
大切な人やペットと目を合わせてみる。
あるいは推しの活躍を喜んでみる。
そんな小さな行動が、あなた自身の脳を元気にし、周りの人の幸せにもつながっていくのかもしれません。
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