~好き嫌いは生まれる前から始まっているかもしれない~
「好き嫌いが多くて困る」
子育てをしていると、一度は耳にする言葉です。
実は近年の研究では、子どもの味覚や食べ物の好みは、離乳食が始まってから作られるだけではなく、お母さんのお腹の中にいる時から形成が始まっていることがわかってきました。
胎児は味を感じている
胎児は妊娠中期以降になると、羊水を飲み込むようになります。
そして、その羊水にはお母さんが食べたものの香りや味の成分が含まれています。
つまり胎児は、羊水を通して母親の食事を「体験」しているのです。
さらに2022年、イギリスの研究では、妊婦さんがニンジンやケールを摂取した後の胎児の表情を超音波で観察したところ、味によって異なる表情を示すことが報告されました。胎児が味覚刺激に反応していることを示す興味深い研究です。
生まれる前の経験が、その後の好みに影響する
フロリダ大学の研究チームは、妊娠中にニンジンジュースを飲んでいた母親から生まれた子どもは、離乳食の時期にニンジン風味を受け入れやすいことを報告しています。
つまり、
「初めて食べたはずなのに、どこか懐かしい」
そんな感覚が胎児期の記憶として残っている可能性があるのです。
私たちは食べ物を「味」だけで判断しているわけではありません。
香りや食感、過去の体験、安心感なども含めて「おいしい」と感じています。
その最初の体験が、お腹の中で始まっていると考えると、とても興味深いですね。
︎味覚は遺伝だけではない
2023年には、東京医科歯科大学(現・東京科学大学)の研究グループが、妊娠・授乳期に母親が高脂肪食を摂取すると、生まれた子どもの塩味嗜好性が変化し、味覚受容体の発現にも影響が現れることを報告しました。
これは、
「何を食べるか」
だけではなく、
「どのような食習慣で生活するか」
という母親の生活全体が、子どもの味覚形成に関与する可能性を示しています。
訪問歯科で感じること
私は訪問歯科診療の現場で、高齢者の方々と日々接しています。
年齢を重ねても、
「昔から好きな味」
「子どもの頃によく食べたもの」
への愛着は驚くほど強く残っています。
何度かブログで取り上げている食感もそうですが、認知症が進行していても、好みの味や懐かしい香りに反応することは珍しくありません。
すなわち、味覚とは単なる栄養摂取のための感覚ではなく、
人生の記憶や感情と深く結びついた感覚
と考えられます。
今回取り上げた内容が興味深いのは、その味覚の土台は、生まれてからではなく、もっと早い段階から作られている可能性があるということです。
「食べる幸せ」は胎児期から始まる
私たちはつい、
「好き嫌いをなくそう」
「栄養バランスを整えよう」
という視点で食事を考えます。
もちろんそれも大切です。
しかし、それと同じくらい大切なのは、
食べることを楽しいと感じる経験を積み重ねること
ではないでしょうか。
母親がさまざまな食材を楽しみながら食べること。
家族で食卓を囲み、笑顔で食事をすること。
その積み重ねが、子どもの味覚や食べる楽しさの土台になるのかもしれません。
「食べる幸せ」は、離乳食から始まるのではなく、お腹の中から始まっている。
そんなことを教えてくれる研究です。
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