(写真は日本経済新聞電子版2026年6月7日より)

今日は、連日メディアを賑わせているメジャーリーガー、Shohei Ohtani大谷翔平選手についてお話ししたいと思います。

野球にあまり詳しくない方でも、彼の活躍を目にしない日はないのではないでしょうか。

そんな大谷選手のバッティングを見ていて、以前から気になっていることがあります。

それは、ボールを打つ瞬間の顔つきです。

よく観察すると、下唇を中心に口の中へ空気をため込むような表情をしています。

もちろん、本人に確認したわけではありませんので、その意図はわかりません。

しかし、一度自分で同じように口を作ってみると、あることに気づきました。

「この状態では食いしばれない」

ということです。

私たちは通常、力を入れる時に無意識に歯を食いしばります。

重い物を持つ時、踏ん張る時、スポーツで瞬間的に大きな力を発揮する時。

食いしばることで体が安定するように感じるためです。

そのため、日頃から身体を酷使するスポーツ選手は歯が欠けたり、すり減ったり、顎に負担がかかったりすることが少なくありません。

ところが、大谷選手のバッティングを見る限り、少なくとも打撃の瞬間には強く食いしばっているようには見えません。

むしろ、

「食いしばらない方が高いパフォーマンスを発揮できることを、彼の身体が知っているのではないか」

そんなことを考えます。

先日のブログでもお話ししましたが、食いしばりをすると顎だけでなく、顔や首の周囲の筋肉も同時に緊張します。

すると、

  • 首が硬くなる
  • 胸郭の動きが制限される
  • 呼吸が浅くなる

という状態が起こりやすくなります。

もちろん、すべての場面で食いしばりが悪いわけではありません。

しかし、野球の打席ではどうでしょう。

ピッチャーが投げるボールは、コースも球種も速度も毎回異なります。

その予測不能なボールに対して、わずかコンマ数秒で反応しなければなりません。

そこでは、筋肉を固めることよりも、

瞬時に動ける柔軟性

の方が重要になるのかもしれません。

ただし、柔らかければ良いというわけでもありません。

柔らかいだけでは、強いスイングの力に身体が負けてしまいます。

大谷選手の凄さは、

柔軟なのにブレないこと

ではないでしょうか。

その背景には、優れた体幹機能やインナーマッスルの存在があるように思います。

身体の深い部分で姿勢を支える筋肉がしっかり働いているからこそ、表面の筋肉を過度に緊張させる必要がない。

だからこそ、食いしばらなくても強く、そしてしなやかに動けるのかもしれません。

そして、インナーマッスルと切り離せないのが「呼吸」です。

インナーマッスルが適切に働くためには、呼吸が整っていることが欠かせません。

呼吸が整えば、自律神経も整いやすくなります。

実際に、緊張した時に深呼吸をすると落ち着く経験は、誰にでもあるでしょう。

呼吸は身体だけでなく、心にも大きな影響を与えています。

お釈迦さまは、さまざまな苦行や修行を経た末に、多くの教えを弟子たちに説きました。

その中で重視されたものの一つが「呼吸」です。

呼吸を整えることは、心と身体の両方を整えることにつながる。

現代のスポーツ科学や医療の視点から見ても、とても興味深い考え方です。

大谷選手の魅力は、ホームランの数や記録だけではありません。

多くの人が彼に惹かれるのは、その落ち着いた振る舞いや謙虚な人間性にも理由があるように感じます。

その土台には、もしかすると日々積み重ねている身体づくりや呼吸との向き合い方があるのかもしれません。

もちろん、これはテレビ越しに見ている私の想像に過ぎません。

それでも、大谷翔平選手の打席での表情を見ながら、

「力を発揮するためには、力を入れ過ぎないことも大切なのかもしれない」

そんなことを考えてしまう、一歯科医師なのでした。

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