前回のブログでは、森永製菓のチョコモナカジャンボにおける「モナカの皮のパリパリ感」が、食べたときの快感情につながるという研究についてお話ししました。今回はその続編として、「パリパリ感(クリスピー感)が人の脳にどのような影響を与えるのか」をfMRI(機能的MRI)で調べた研究をご紹介します。

論文タイトルは

Pleasantness emotions and neural activity induced by the multimodal crispiness of monaka ice cream

(モナカアイスの多感覚的なクリスピー感によって誘発される快感情と脳活動)です。

この研究のテーマは
「なぜパリパリ感が気持ちよく感じるのか」
「そのとき脳では何が起こっているのか」
を明らかにすることでした。

研究では、モナカアイスを食べる際の
・クリスピーな食感
・咀嚼音
・見た目
・割れる感覚
といった“多感覚情報”が、脳のどの部位を刺激し、「おいしい」「気持ちいい」という感情につながるのかを調べています。

実験には健康な成人10名(男性6名、女性4名)が参加しました。

比較されたのは2種類のモナカアイスです。

ひとつは水分量約7%の「低水分モナカ」で、強いパリパリ感があります。

もうひとつは水分量約12%の「高水分モナカ」で、ややしっとりした食感です。

アイスの中身は同じで、違いはモナカ皮の水分量だけです。

参加者はまず実際にモナカアイスを食べ、その後fMRI装置の中で、
・モナカを割る映像
・食べる映像
・咀嚼音
を見聞きしながら、「どれくらい好ましいか」を4段階で評価しました。

つまりこの研究は、「実際に食べた記憶を思い出させながら脳活動を測定した研究」と言えます。

結果として、パリパリした低水分モナカの方が、
・好感度
・快感情
ともに有意に高くなりました。

さらに興味深いのは、脳活動の変化です。

パリパリモナカでは、左右の聴覚野(上側頭回)が強く活動していました。これは、「パリッ」という咀嚼音が脳を強く刺激していたことを示しています。

また、快感や報酬評価に関わるvmPFC(腹内側前頭前野)も強く活性化していました。

vmPFCは、
・おいしい
・気持ちいい
・好き
といった主観的価値判断に関与する脳領域として知られています。

さらに、「おいしい」「好き」と感じた人ほど、vmPFCの活動も強くなることが確認されました。

この研究から分かるのは、「食感」は単純に舌だけで感じているものではないということです。

実際には、
・咀嚼音
・見た目
・割れる感覚
・食感
・過去の食経験
などを脳が統合し、「おいしい」「気持ちいい」という感情を作り出しています。

これは歯科・咀嚼・嚥下の視点から見ても非常に興味深い内容です。

特に重要なのは、「咀嚼音」が快感情に強く関与している点です。

つまり、
・しっかり咬める
・よく咀嚼できる
・咀嚼音を感じられる
こと自体が、脳への報酬刺激になっている可能性があります。

高齢者の摂食嚥下障害や口腔機能低下では、
・咀嚼力低下
・咀嚼音の減少
・食感認知低下
が起こります。

すると、
・食事の楽しさ低下
・食思の低下
につながる可能性があります。

口腔機能と脳刺激の関係から考えると、咀嚼は単なる栄養摂取ではありません。

むしろ、
・感覚刺激
・情動刺激
・報酬刺激
として脳を活性化している可能性があります。

これは近年注目されている、
・咀嚼と認知機能
・咀嚼とセロトニン
・咀嚼と自律神経
の研究とも一致しています。

もちろん、この研究には限界もあります。

著者らは、
・被験者数が10名と少ない
・実際に食べながら測定したわけではない
・「思い出しながら」の脳活動である
・日本文化特有の食品である可能
などを挙げています。

しかし逆に考えると、「実際に食べていないにもかかわらず脳の快楽系が活性化した」という事実は、食の快感情が単なる“味”だけではなく、
・音
・食感
・咀嚼体験
・記憶
によって大きく形成されていることを示しているとも言えます。

“おいしさ”は味覚だけでは完成しません。

「パリッ」という音、咬んだときの感触、食べた経験、そのすべてを脳が統合して、「おいしい」という感情を作っています。

私たち歯科医師が患者さんの食支援を行う際にも、「安全に食べられるか」だけでなく、
・食感を感じられるか
・咀嚼音を楽しめるか
・食べる喜びを維持できるか
という視点を持つことが大切と言えるでしょう。

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