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今回は「よく咬むことの大切さ」を別の視点でお話しします。

前回は「舌」に注目し、咀嚼が体に与える影響を見てきました。舌は、私たちが意識しないところで、咀嚼や嚥下、発音などに関わる非常に重要な役割を担っています。しかし、しっかり咬むことで鍛えられるのは舌だけではありません。唇や頬、喉、さらには呼吸のコントロールなど、さまざまな部位が関係しています。

その中でも今回は、「脳への影響」に焦点を当ててみます。

咀嚼という行為は、主に首から上の筋肉を使う運動です。そのため、筋肉の動きによって血流が促され、脳へと血液を送り出す“ポンプ”のような役割を果たしていると考えられます。これは感覚的にもイメージしやすいのではないでしょうか。

また、咀嚼によって大脳皮質の咀嚼野が刺激されると、前頭葉、頭頂葉、後頭葉で脳局所血流が増加するという報告もあります。

皮質咀嚼野刺激による大脳皮質における血管拡張反応とそのメカニズム

しかし、咀嚼の影響は単なる血流の増加にとどまりません。脳の働きを支える「脳内物質」にも作用します。その代表が、いわゆる“幸せホルモン”と呼ばれるセロトニンです。

実際に、「ガムをリズミカルに咬み続けることで痛みの反応が抑制される」という研究(Prolonged rhythmic gum chewing suppresses nociceptive response via serotonergic descending inhibitory pathway in humans)では、約20分間のガム咀嚼によってセロトニンの関与が確認されています。

こうした点から考えると、メジャーリーガーが試合中にガムを咬む行為も、単なる習慣ではなく、セロトニンの働きを通じて集中力やパフォーマンスを高めるための一つの手段と捉えることができます。

さらに、セロトニン神経を活性化させるのは咀嚼だけではありません。歩行や呼吸といった「リズム運動」にも同様の効果があることが分かっています。一定のリズムで体を動かすことが、セロトニンの分泌を促すのです。

セロトニンについての詳しい働きは、次回のブログで改めてご紹介しますが、この分野は、セロトニン研究の第一人者である有田秀穂先生の長年の研究によって広く知られるようになりました。すでに耳にしたことがある方も多いかもしれません。

まずは今回のまとめとして、シンプルにお伝えしたいと思います。

「よく咬むことは、心と体の両方に働きかけ、私たちをより良い状態へ導いてくれる」

言い換えれば——
よく咬むことで、人はより“幸せ”に近づくことができるのです。

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